古の都人は桜の木には神が宿ると考え、蕾が綻ぶ(開花の)様は、その神のご利益の現れであると信じられていた。今なお日本各地の神社では、桜の古木がご神体として、少なからず祀られているとか。
現在でも、結婚式や結納など祝いの席では「お茶を濁す」事の無いようお茶(抹茶や煎茶)を避け、桜の中で最も香りが強い八重桜を塩(酢)漬けにした物に湯を注いだ縁起物の「桜湯」が飲用されているほどである。
◆御車返しの桜
古来天下の名花と謳われ、今は京都でも縁結びの神様として名高い清水寺の地主神社に、一樹に八重と一重の花を同時に咲かせる「地主桜(じしゅざくら)」がある。
平安初期、嵯峨天皇が地主神社へと行幸された折、祈願を終えて帰途に就こうとする牛車を、嵯峨天皇は一度ならずも二度三度とお返しになり、美しく咲き誇る地主桜を眺めたと言われている。
時は流れて、いつしか地主桜は「御車返しの桜」とも呼ばれるようになった。
◆御車返しと呼ばれている代表的な桜
・常照皇寺の御車返しの桜
・京都御苑の宜秋門前の御車返しの桜
・京都清水寺の地主神社の地主桜
・鎌倉極楽寺の八重一重咲分桜
何れの「御車返しの桜」にも、嵯峨天皇、御水尾天皇、公家などが御車を引き返して見事に咲く花を眺めたという伝承があるようだ。